工場や倉庫、病院、ホテルなどの建物の中で、「人がどこにいるのか」「設備がどこにあるのか」「台車や荷物がどこへ移動したのか」を把握したいと考えたとき、GPSだけでは十分ではないことがあります。
GPSは屋外の広い範囲で位置を把握することを得意としていますが、建物の中では衛星からの信号が届きにくくなり、十分な精度で位置を把握できないことがあります。
そこで屋内測位の技術として注目されているものの一つが、UWB(Ultra-Wideband)です。
UWBは、単に「近くにいる」ことを知るのではなく、機器同士の距離を精密に測ることを得意としています。
さらに、その位置情報を継続的に利用することで、「危険エリアに入った」「ある場所から出た」「人と車両が一定距離まで近づいた」「通常より長くその場所に滞留している」といった現実世界の状態変化を検知し、通知や記録、システム処理へつなげることもできます。
この記事では、UWBとは何か、GPSやBluetoothとは何が違うのか、なぜ高精度な測位ができるのか、そして位置情報をどのように現場の判断や業務へつなげられるのかをわかりやすく解説します。
UWBとは?
UWBは、Ultra-Widebandの略で、日本語では「超広帯域無線」などと呼ばれます。
名前の通り、非常に広い周波数帯域を利用する無線技術です。
UWBには通信という側面もありますが、現在特に注目されている用途の一つが、測距・測位です。
つまり、「機器同士がどれくらい離れているのか」「対象がどの位置にいるのか」を把握するために利用できます。
UWBは「位置」そのものを測っているわけではない
UWBの仕組みを理解するうえで、最初に整理しておきたいことがあります。
UWB機器が直接、「あなたはこの座標にいます」と測っているわけではありません。
基本になるのは、機器同士の距離を測ることです。
例えば、
- 移動するタグ
- 位置が分かっているアンカー
があるとします。
タグと複数のアンカーとの距離が分かれば、その情報からタグの位置を計算できます。
つまり、距離を測る → 複数の距離を組み合わせる → 位置を求めるという考え方です。
屋内測位では、この「距離をどれだけ正確に測れるか」が非常に重要になります。
なぜUWBは距離を高い精度で測れるのか
UWBの大きな特徴の一つが、電波が移動する時間を利用して距離を測れることです。
代表的な考え方が、ToF(Time of Flight)です。
日本語にすると、「電波が飛んでいる時間」という意味です。
電波は非常に速く移動します。
そこで、「電波を送ってから相手へ届くまでに、どれくらい時間がかかったのか」を精密に測ることで、機器同士の距離を求めます。
単純化すると、距離 = 電波の速度 × 電波が移動した時間という考え方です。
RSSIで測る方法とは何が違うのか
無線を使った位置推定では、RSSI(Received Signal Strength Indicator)つまり「受信した電波の強さ」を利用する方法もあります。
考え方は比較的単純です。
電波が強い → 近い可能性が高い
電波が弱い → 遠い可能性が高い
という関係から距離を推定します。
Bluetoothビーコンなどで利用されてきた方法です。
ただし、電波の強さは、
- 壁
- 人
- 棚
- 機械
- 周囲の電波環境
などの影響を受けます。
そのため、電波が弱い=必ず遠いとは限りません。
UWBでは、主に「信号の強さ」ではなく「信号が届くまでの時間」を利用できるため、高精度な測距を行いやすいという特徴があります。
GPSとUWBは何が違うのか
GPSとUWBはどちらも位置を把握するために使えますが、役割はかなり異なります。
GPSは人工衛星からの信号を利用します。
そのため、
- 屋外
- 広い範囲
- 地図上の現在地
を把握する用途に非常に適しています。
一方で、建物内や地下では衛星信号が遮られたり反射したりするため、利用条件が厳しくなります。
UWBは、比較的近い範囲にあるUWB対応機器同士で距離を測ります。
そのため、
GPS:広い屋外空間で位置を把握する
UWB:屋内などで対象同士の位置関係を細かく把握する
という使い分けを考えると分かりやすいでしょう。
どちらが優れているという話ではありません。
用途が違います。
BluetoothとUWBは何が違うのか
Bluetoothは、スマートフォン、イヤホン、センサーなど非常に多くの機器に搭載されている無線技術です。
その普及度の高さは大きなメリットです。
Bluetoothを使った位置情報では、従来はRSSIによる近接判定や、Bluetooth Direction Findingなどの方法が使われてきました。
一方、UWBは精密な測距を大きな特徴としています。
ただし、「Bluetoothは低精度、UWBは高精度」と単純に言い切るのは適切ではありません。
Bluetoothにも精密な距離測定を行う技術があります。
そのため技術選定では、
- 既存機器との互換性
- 必要な精度
- 距離
- 消費電力
- コスト
- セキュリティ
- 導入環境
まで含めて考える必要があります。
UWBではどの程度の精度が期待できるのか
UWBは、屋内で高精度な距離測定・位置測位を行えることが大きな特徴です。
環境やシステム構成にもよりますが、センチメートル単位や数十センチ程度の精度で位置関係を把握できる場合があります。
ただし、「UWBなら必ず10cmで測れる」と考えるのは適切ではありません。
実際の精度は、
- アンカー配置
- 建物構造
- 金属
- 壁
- 人
- 電波の反射
- 見通し
- タグの取り付け位置
- システム設計
などによって変わります。
カタログ上の精度と、実際の現場で得られる精度は同じとは限りません。
UWBにも電波環境の影響はある
UWBは高精度測位に適した技術ですが、電波を利用する以上、現場環境の影響を完全に受けないわけではありません。
例えば、
- 金属設備が多い工場
- 壁や棚が多い倉庫
- 人が密集する場所
- 複雑な建物構造
では、電波が遮られたり反射したりすることがあります。
特に、送信側と受信側の間に直接見通せる経路がない状態では、測定誤差が大きくなることがあります。
つまり、UWBを使えば、自動的に高精度になるわけではないということです。
現場に合わせた設計が必要です。
「アンカー」と「タグ」とは?
UWBを使った屋内測位では、アンカーとタグという言葉がよく使われます。
アンカー
位置があらかじめ分かっている基準側の機器です。
例えば工場の壁や天井など、固定された場所に設置します。
タグ
位置を知りたい人やモノに取り付ける機器です。
例えば、
- 作業者
- 台車
- フォークリフト
- 工具
- 医療機器
- 荷物
などです。
タグとアンカーの間で距離を測り、その情報からタグの位置を計算します。
UWBには複数の測位方式がある
UWB測位には一つの方法しかないわけではありません。
代表的なものとして、
- TWR(Two-Way Ranging)
- TDoA(Time Difference of Arrival)
- AoA / PDoAなど方向に関する方式
があります。
どの方式を使うかによって、
- タグ側の通信量
- アンカー側の構成
- 同時に測位できる対象数
- システム規模
- コスト
などが変わります。
そのため、「UWBを採用する」だけでは設計は終わりません。
何を測りたいのかによって、測位方式そのものを選ぶ必要があります。
UWBはどのような場所で使えるのか
UWBは、特に屋内で人やモノの位置を細かく把握したい場面に向いています。
工場
- 作業者の位置
- 工具の探索
- 台車の位置
- フォークリフトの動線
- 危険エリアへの接近検知
倉庫・物流
- パレットの位置
- 商品の探索
- 搬送状況
- フォークリフトの位置
- 滞留の把握
病院
- 医療機器
- 車椅子
- 備品
などの探索。
ホテル・施設
スタッフや設備の位置を業務情報と組み合わせ、
- 業務状況
- 動線
- 対応状況
などの把握につなげることが考えられます。
UWBは「どこにいるか」を見るだけの技術ではない
UWBを使った位置情報システムというと、「人やモノがどこにあるのかを画面上で確認する」という使い方をイメージするかもしれません。
しかし、位置情報の価値は、それだけではありません。
位置をリアルタイムに把握できれば、
- ある場所に入った
- ある場所から出た
- 一定の距離まで近づいた
- 一定時間その場所に滞在している
といった状態の変化を検知できます。
例えば工場では、作業者が本来入ってはいけない危険エリアへ入ったことを検知し、本人や管理者へアラートを通知することが考えられます。
いわゆる、ジオフェンス(Geofence)あるいは、電子フェンスと呼ばれる考え方です。
物理的な柵を設置するのではなく、システム上に仮想的なエリアを設定し、その境界への侵入や退出などを位置情報から判定します。
例えば、
- 危険区域への作業者の侵入
- フォークリフトと作業者の接近
- 管理対象物の指定エリア外への持ち出し
- 車両の特定エリアへの進入
- 医療機器の所定エリア外への移動
- 宿泊施設や施設内でのスタッフ・設備の状態把握
などです。
つまり、位置を測る → エリアを判定する → 状態の変化を検知する → アラートやシステム処理につなげるという使い方ができます。
これは「位置を表示する」こととは大きく意味が異なります。
「座標」より「イベント」に価値がある
企業にとって重要なのは、必ずしも、「X=12.3m、Y=8.7m」という座標そのものではありません。
むしろ、「危険エリアに入った」「設備から離れた」「人と車両が一定距離まで接近した」「通常より長く滞留している」という、業務上意味のあるイベントに変換することが重要です。
例えば、
作業者A ↓ 危険エリアへ侵入 ↓ アラート ↓ 管理者へ通知 ↓ 発生時刻・場所を記録
まで行えば、位置情報は単なる測位データではなく、安全管理の仕組みになります。
同じ位置情報でも、
台車A ↓ 工程Bへ到着 ↓ 作業開始として記録
とすれば、工程管理の仕組みになります。
つまりUWBの価値は、位置を高精度に測れることだけではなく、現実世界で起きたことをシステムが認識できることにあります。
UWBは身近な製品にも使われている
UWBは工場向けの特殊な技術だけではありません。
対応するスマートフォンや紛失防止デバイスなど、身近な製品でも利用されています。
こうした用途では、「近くにある」だけでなく、「どちらの方向に、どれくらい離れているか」という空間的な情報を扱うことができます。
UWBを選べばよいわけではない
ここが、第12号から続く重要なポイントです。
位置情報システムを作る目的は、UWBを導入することではありません。
例えば、「倉庫でパレットがどのエリアにあるか分かればよい」という要件であれば、必ずしも非常に細かな位置精度は必要ありません。
一方、「作業者が危険な機械へ一定距離まで近づいたことを検知したい」のであれば、より細かな距離情報が重要になるかもしれません。
つまり、必要な精度は、業務によって違うということです。
精度を上げるほどシステムが良くなるわけではない
位置測位では、「もっと精度を上げたい」という要求が出ることがあります。
しかし、高精度化には通常、
- 設備
- アンカー
- 設計
- 調整
- 運用
- コスト
が伴います。
もし業務上、「どのフロアにいるか」だけ分かれば十分なのに、数センチ単位の精度を求めても、その精度が業務価値につながらない可能性があります。
重要なのは、技術として実現できる最高精度ではなく、業務に必要な精度です。
位置情報と業務情報を組み合わせる
UWBによって位置が分かったとしても、「タグ001が座標X,Yにあります」だけでは、大きな価値にはならないかもしれません。
重要なのは、
タグ001 = 台車A
座標X,Y = 検査工程
時刻 = 14:30
というように、位置を業務上の意味へ変えることです。
さらに、通常5分の工程に20分滞留しているという業務情報まで組み合わせれば、「工程で問題が起きている可能性がある」という判断につなげられます。
つまり、UWB ↓ 距離・位置 ↓ 移動・接近・侵入・退出・滞留 ↓ イベント検知 ↓ 通知・記録・制御 ↓ 業務判断・自動化という形で初めて、UWBの測位データが企業の価値になります。
NTIが考えるUWB
NTIでは、UWBを単なる「高精度な位置測位技術」とは考えていません。
重要なのは、位置情報を使って、現場の何を見えるようにするのかです。
人がどこにいるのか。モノがどこにあるのか。どのように移動したのか。どこで止まっているのか。何と何が近づいたのか。どのエリアへ入ったのか。どのエリアから出たのか。
そうした現実世界の情報をデータとして取得し、業務情報と組み合わせる。
さらに、その位置情報を、「現実世界で何が起きたのか」というイベントへ変換し、
- アラート
- 通知
- 記録
- システム処理
- 設備制御
- AIによる分析や判断支援
へつなげる。
そこまで設計して初めて、位置情報は企業にとって価値のある情報になるとNTIは考えています。
UWBは目的ではありません。
現実世界を理解するための一つのセンサーです。
まとめ
UWBは、広い周波数帯域を利用する無線技術で、電波の伝搬時間などを利用することで精密な距離測定を行えます。
GPSが屋外の広い範囲で位置を把握することを得意とするのに対し、UWBは屋内など比較的限られた空間で、人やモノの位置関係を細かく把握する用途に向いています。
しかし、本当に重要なのは、UWBを使うことではありません。
何を測りたいのか。どの程度の精度が必要なのか。どのくらいの対象を追跡するのか。どのような環境で使うのか。
そして、取得した位置情報を、どの業務に使うのか。
ここまで考えて初めて、位置測位システムになります。
さらに、位置情報をリアルタイムに利用すれば、危険エリアへの侵入。人と車両の接近。管理対象物の持ち出し。一定時間の滞留。といった現実世界の状態変化を検知し、通知・記録・制御・業務判断へつなげることもできます。
UWBは、「どこにあるか」を高い精度で把握する技術であると同時に、「現実世界で何が起きたのか」をシステムが認識するための技術の一つです。
そして、その情報を業務データと組み合わせることで、現場の可視化、効率化、安全性向上、自動化、さらにはAIによる判断支援へとつなげることができます。