位置情報というと、多くの人はスマートフォンの地図やカーナビで使われるGPSを思い浮かべるかもしれません。
しかし、位置情報の本当の価値は、「自分が今どこにいるのか」を知ることだけではありません。
私たちが生活している現実世界では、常に「人」と「モノ」が動いています。
人が移動する。商品が運ばれる。機械が動く。車が走る。荷物が届けられる。
そして、それらは必ず「場所」と結びついています。
もし、この「どこにあるのか」「どこへ動いたのか」「どこにどれくらいいたのか」をデータとして捉えることができれば、現実世界で起きていることを、これまでとは違った形で理解できるようになります。
位置情報とは、単なる地図上の座標ではありません。
現実世界をデータとして理解するための重要な情報の一つなのです。
私たちはすでに位置情報を使っている
位置情報は、すでに私たちの日常生活のさまざまな場面で使われています。
たとえば、
- スマートフォンの地図
- カーナビゲーション
- 配車サービス
- フードデリバリー
- 宅配便の配送状況
- ランニングやサイクリングの記録
- スマートフォンやデバイスの紛失防止
などです。
こうしたサービスでは、「今どこにいるのか」という情報がサービスの重要な要素になっています。
特にGPSの普及によって、屋外では比較的簡単に位置を把握できるようになりました。
そのため、位置情報=GPSというイメージを持っている人も少なくありません。
しかし、位置情報の世界はGPSだけではありません。
GPSが得意なのは「屋外の位置」
GPS(Global Positioning System)は、人工衛星から送られてくる信号を利用して位置を推定する仕組みです。
スマートフォンやカーナビなどで広く利用されており、屋外で自分の現在地を知るためには非常に便利な技術です。
一方で、GPSには苦手な場所もあります。
代表的なのが屋内です。
建物の中では衛星からの信号が届きにくくなるため、GPSだけでは十分な精度で位置を把握できないことがあります。
つまり、「屋外でどこにいるか」は分かっても、「建物の中でどこにいるか」までは十分に分からないことがある。
ここに、位置情報を考えるうえで重要なポイントがあります。
私たちの活動の多くは「屋内」で起きている
企業活動を考えてみると、人やモノが動いている場所の多くは建物の中です。
たとえば、
- 工場
- 倉庫
- オフィス
- 病院
- ホテル
- 商業施設
- 駅
- 空港
などです。
こうした場所では、日々多くの人やモノが移動しています。
ところが、その動きは必ずしもデータとして把握されているわけではありません。
「設備がどこにあるのか分からない」「必要な備品を探している」「スタッフがどこにいるのか分からない」「商品がどこで止まっているのか分からない」「どの場所が混雑しているのか分からない」
こうしたことは、多くの現場で起こります。
これは言い換えると、現実世界では見えているはずのことが、デジタル上では見えていないという状態です。
「位置」が分かると、「動き」が分かる
位置情報の価値は、ある瞬間の位置を知ることだけではありません。
位置を継続的に捉えることで、「動き」が見えるようになります。
たとえば、ある人の位置を時間とともに記録すると、
A地点 ↓ B地点 ↓ C地点
という移動が分かります。
これは単なる位置の記録ではなく、動線という情報になります。
工場であれば、作業者がどのように移動しているのか。倉庫であれば、商品や台車がどのように移動しているのか。ホテルであれば、スタッフがどのエリアを移動しているのか。
位置情報を時間軸で見ることで、これまで感覚でしか分からなかった現場の動きをデータとして捉えられるようになります。
「動き」が分かると、「滞留」が分かる
さらに、位置情報から分かるのは移動だけではありません。
ある場所にどれくらいの時間いたのか。つまり、滞留も分かるようになります。
たとえば倉庫で、ある荷物が通常より長い時間、特定の場所に留まっているとします。
位置だけを見れば、「そこに荷物がある」という情報です。
しかし時間を組み合わせると、「本来移動しているはずの荷物が、30分以上同じ場所に止まっている」という情報になります。
すると、「何か問題が起きているのではないか」という判断につなげることができます。
位置情報は、位置 × 時間で見ることで、より大きな意味を持つようになります。
「位置」と「時間」から「状態」が見えてくる
ここまで来ると、位置情報は単なる「場所の情報」ではなくなります。
たとえば、「作業者AがエリアXにいる」だけではなく、「作業者AがエリアXに20分間滞在している」という情報になります。
さらに業務情報と組み合わせれば、「通常5分で終わる工程に20分かかっている」ということまで見えてくる可能性があります。
つまり、位置 → 動き → 滞留 → 状態と情報の意味を広げることができます。
これが、企業にとって位置情報が重要になる理由の一つです。
位置情報は「現実世界のデジタル化」につながる
企業では、さまざまな情報がデジタル化されています。
顧客情報。売上情報。在庫情報。勤怠情報。設備情報。
しかし、現実世界で人やモノがどのように動いているのかについては、まだ十分にデータ化されていない領域があります。
ここに位置情報を組み合わせると、「誰が」「何が」「どこにいて」「いつ」「どのように動いたのか」をデータとして扱えるようになります。
これは、現実世界で起きていることをデジタル空間で理解するための重要な要素になります。
位置情報によって変えられる仕事は多い
位置情報を活用できる可能性がある業務は、非常に幅広くあります。
工場
作業者、部品、工具、台車などの位置や移動を把握することで、
- モノを探す時間の削減
- 作業動線の分析
- 工程の滞留把握
- 安全管理
などにつなげられる可能性があります。
倉庫・物流
荷物、パレット、フォークリフトなどの位置を把握することで、
- 在庫探索
- 搬送状況の把握
- 滞留の検知
- 作業効率の分析
などに活用できます。
病院
医療機器や備品などの位置を把握することで、「必要なものがどこにあるのか分からない」という探索時間を減らせる可能性があります。
ホテル
スタッフや設備などの位置情報を業務情報と組み合わせることで、
- 業務状況の把握
- スタッフ配置
- 作業効率化
- サービス改善
などにつなげられる可能性があります。
オフィス
人や設備の利用状況を把握することで、
- 会議室利用
- 座席利用
- オフィスレイアウト
- 働き方
などを考える材料になります。
重要なのは、位置を測ること自体が目的ではないということです。
位置情報から現場の状態を理解し、業務を改善することに意味があります。
位置情報は単独では価値にならない
ここは非常に重要なポイントです。
高い精度で位置を測ることができても、それだけでは企業にとって大きな価値にはなりません。
たとえば、「台車Aが座標X,Yにあります」という情報だけを表示しても、現場の仕事が変わるとは限りません。
必要なのは、その位置情報が何を意味しているのかを業務と結びつけることです。
たとえば、
位置情報 ↓ 業務情報 ↓ 時間情報 ↓ 状態判断 ↓ アクション
という形です。
「どこにあるか」から、「何が起きているか」さらに、「何をすべきか」までつながって初めて、位置情報は業務価値になります。
位置を知る技術はGPSだけではない
位置を把握するための技術には、GPS以外にもさまざまなものがあります。
たとえば、
- GPS / GNSS
- Wi-Fi
- Bluetooth / BLE
- RFID
- カメラ・画像認識
- UWB(Ultra-Wideband)
などです。
それぞれ、
- 測位精度
- 通信距離
- 消費電力
- コスト
- 設置環境
- 屋内・屋外
- リアルタイム性
などに違いがあります。
そのため、「最も精度の高い技術を使えばよい」わけではありません。
何を把握したいのか。どの程度の精度が必要なのか。どれくらいの頻度で位置を知る必要があるのか。対象は人なのか、モノなのか。どのような環境で使うのか。
こうした条件によって、適切な技術は変わります。
屋内では「どのくらい正確に分かるか」が重要になる
屋外で地図を見る場合、「この道路にいる」「この建物の近くにいる」という程度でも十分なことがあります。
しかし屋内では事情が変わります。
たとえば、「工場の中にある」だけでは、設備を探すには十分ではありません。
「このエリアにある」「この棚の近くにある」「この機械の横にある」というように、より細かな位置が必要になる場合があります。
つまり、屋内の位置情報では、位置が分かるかどうかだけではなく、どのくらいの精度で分かるのかが重要になります。
ここで注目される技術の一つが、UWB(Ultra-Wideband)です。
UWBは高精度な位置測定を可能にする技術の一つ
UWBは、非常に広い周波数帯域を利用する無線通信技術です。
UWBの特徴の一つとして、電波が届くまでの時間などを利用して距離を高い精度で測定できることがあります。
そのため、「建物の中にいる」という大まかな位置だけではなく、より細かな位置関係を把握したいという用途で活用されています。
ただし、UWBを導入すれば、それだけで位置情報活用が完成するわけではありません。
UWBも位置を測るための「技術」の一つです。
本当に重要なのは、その位置情報を使って何を実現するのかです。
NTIが考える位置情報
NTIでは、位置情報技術そのものを目的とは考えていません。
重要なのは、現実世界で起きていることを、どのようにデータとして捉え、業務につなげるかだと考えています。
人がどこにいるのか。モノがどこにあるのか。どのように動いたのか。どこで止まったのか。
その情報を業務データと組み合わせることで、これまで見えなかった現場の状態が見えてくる可能性があります。
そして、その先には、
- 業務効率化
- 自動化
- 安全管理
- サービス改善
- AIによる分析や判断支援
といった活用があります。
位置情報は、単なる座標ではありません。
現実世界とデジタル世界をつなぐための重要なデータの一つです。
まとめ
位置情報というと、GPSや地図を思い浮かべることが多いかもしれません。
しかし、企業における位置情報の価値は、それだけではありません。
人やモノの位置を継続的に捉えることで、位置 → 動き → 滞留 → 状態という形で、現実世界で起きていることをデータとして理解できるようになります。
さらに業務情報と組み合わせれば、「どこにあるか」から「何が起きているか」、そして「何をすべきか」へ情報の価値を広げることができます。
特に工場、物流、病院、ホテル、オフィスなど、屋内で人やモノが動く現場には、まだデータ化されていない情報が数多くあります。
その現実世界をデジタルで捉える技術の一つが、UWBです。
では、UWBはGPSやBluetoothなどの技術と何が違い、なぜ高い精度で位置を把握できるのでしょうか。
次の記事では、「UWBとは?」をテーマに、その仕組みと特徴をわかりやすく解説します。