工場や倉庫、病院、ホテルなどでは、日々多くの人やモノが動いています。
しかし、「必要な設備がどこにあるのか分からない」「作業者がどこにいるのか分からない」「荷物がどこで止まっているのか分からない」「どのエリアで作業が滞っているのか分からない」といったことは珍しくありません。
屋外であればGPSを使って位置を把握できます。
一方、建物の中ではGPSだけで十分な位置情報を得ることが難しい場合があります。
そこで利用されるのが、屋内測位です。
屋内測位の目的は、単に地図上へ人やモノの位置を表示することではありません。
重要なのは、位置情報を、動線・滞留・接近・エリア侵入といった業務上意味のある情報へ変え、現場の改善につなげることです。
この記事では、屋内測位とは何か、どのような技術が使われるのか、そして取得した位置情報をどのように業務価値へ変えていくのかをわかりやすく解説します。
屋内測位とは
屋内測位とは、建物や施設の中で、人やモノの位置を把握するための仕組みです。
例えば、
- 作業者
- 台車
- フォークリフト
- 工具
- パレット
- 荷物
- 医療機器
- 車椅子
- 設備
などの位置をデータとして取得します。
GPSが屋外の広い範囲で位置を把握することを得意としているのに対し、屋内測位では、建物の中のどの場所にいるのかを把握することが目的になります。
なぜ屋内ではGPSだけでは足りないのか
GPSは人工衛星からの信号を利用して位置を推定します。
屋外では非常に便利ですが、建物の中では衛星からの信号が弱くなったり、壁や構造物によって遮られたりします。
そのため、「この建物にいる」ことは分かっても、「どのフロアにいるのか」「どの部屋にいるのか」「どの設備の近くにいるのか」まで十分に把握できない場合があります。
企業の現場では、この差が重要になります。
例えば工場で、「フォークリフトが工場内にいる」だけでは、業務上ほとんど意味がありません。
必要なのは、「どの工程の近くにいるのか」「危険エリアへ近づいていないか」といった、より具体的な位置情報です。
屋内測位にはどのような技術が使われるのか
屋内で位置を把握する方法は一つではありません。
代表的なものとして、
- UWB
- Bluetooth / BLE
- Wi-Fi
- RFID
- カメラ・画像認識
- 磁気
- 超音波
などがあります。
それぞれ、
- 精度
- 距離
- コスト
- 消費電力
- 設備構成
- リアルタイム性
- 対象となる人やモノ
- 導入環境
が異なります。
そのため、「屋内測位ならUWBを使えばよい」というわけではありません。
何を実現したいかによって、適切な技術は変わります。
屋内測位では「必要な精度」から考える
位置情報システムを検討すると、「できるだけ高精度にしたい」と考えがちです。
しかし、必ずしも精度が高いほど良いとは限りません。
例えば、「社員がどのフロアにいるか」を知りたいのであれば、数センチ単位の精度は必要ないかもしれません。
一方、「作業者とフォークリフトが一定距離まで近づいたことを検知したい」という用途では、より細かな距離情報が必要になります。
つまり、必要な精度は、業務要件によって決まるということです。
屋内測位では、「何センチで測れるか」より先に、「何を判断するために位置情報が必要なのか」を考えることが重要です。
位置が分かると、モノを探す時間を減らせる
屋内測位の分かりやすい活用例の一つが、探索時間の削減です。
現場では、「台車が見つからない」「工具がどこにあるのか分からない」「医療機器を探している」といったことがあります。
こうした探索は、一回ごとの時間は短くても、積み重なると大きなロスになります。
位置情報が分かれば、対象物が最後にどこにあったのか、あるいは、現在どこにあるのかを確認できます。
人が探し回るという作業を減らせる可能性があります。
位置を継続的に取ると「動線」が見える
位置情報は、一回取得するだけではなく、継続的に取得することで価値が大きくなります。
例えば、
A地点 ↓ B地点 ↓ C地点
という位置の変化を記録すれば、どのように移動したのかが分かります。
これが、動線です。
例えば工場で作業者の動線を見ると、「必要以上に同じ場所を往復している」「部品を取りに遠くまで移動している」といったことが見えてくる可能性があります。
すると、
- 設備配置
- 部品配置
- 作業手順
- 動線設計
の改善につなげることができます。
「滞留」が分かると業務の異常が見える
位置情報に時間を組み合わせると、滞留が分かります。
例えば、通常5分で通過する工程に荷物が30分留まっていたとします。
単に位置を見るだけなら、「そこに荷物がある」という情報です。
しかし時間を加えると、「通常より長く止まっている」という状態になります。
ここから、「何かトラブルが起きているのではないか」「工程が詰まっているのではないか」という判断につなげられます。
つまり、位置 × 時間によって、単なる位置情報が業務状態の情報へ変わります。
屋内測位では「エリア」という考え方も重要
必ずしも、すべての用途で正確な座標が必要なわけではありません。
例えば、「この設備が倉庫Aにある」「この作業者が危険区域にいる」ということが分かれば十分な場合があります。
そこで利用されるのが、エリア判定です。
システム上に、
- 作業エリア
- 保管エリア
- 危険エリア
- 立入禁止エリア
- 搬入エリア
などを設定します。
位置情報をもとに、対象がどのエリアにいるのかを判定します。
電子フェンスで「侵入」や「退出」を検知する
位置情報をエリアと組み合わせると、電子フェンスあるいは、ジオフェンス(Geofence)として利用できます。
例えば危険な機械の周囲に仮想的なエリアを設定します。
作業者がそのエリアへ入った場合、
作業者 ↓ 危険エリアへ侵入 ↓ システムが検知 ↓ 本人へアラート ↓ 管理者へ通知 ↓ 発生履歴を記録
といった処理につなげられます。
逆に、「指定エリアから設備が出た」ことを検知することもできます。
例えば、
- 管理対象物の持ち出し
- 医療機器のエリア外移動
- 車両の進入・退出
- 荷物の工程移動
などです。
位置情報は、どこにいるかだけではなく、エリアに入った・出たというイベントへ変換できます。
「接近」を検知すると安全管理にも使える
屋内測位では、人とモノの距離も重要な情報になります。
例えば工場では、
- 作業者
- フォークリフト
- AGV
- ロボット
などが同じ空間で動くことがあります。
そこで、「作業者とフォークリフトが一定距離まで近づいた」ことを検知できれば、
- 作業者へ警告
- 運転者へ警告
- 管理者へ通知
といった安全対策につなげることができます。
つまり、位置だけではなく、対象と対象の関係を見ることもできます。
「位置」を「イベント」に変える
企業で位置情報を利用するときに重要なのは、座標そのものではありません。
例えば、
X = 12.3m
Y = 8.7m
という情報を見ても、多くの人には業務上の意味がありません。
しかし、
危険エリアに入った
工程Bへ到着した
指定エリアから持ち出された
フォークリフトが作業者へ接近した
20分以上同じ場所に滞留している
という情報であれば、意味が分かります。
つまり、位置データを、業務上意味のあるイベントへ変換する必要があります。
イベントから「通知・記録・制御」へつなげる
位置情報をイベントへ変換すると、その先のシステム処理へつなげられます。
例えば、
位置 ↓ 危険エリア侵入 ↓ アラート ↓ 管理者へ通知 ↓ 履歴を保存
という流れです。
あるいは、
台車が工程Bへ到着 ↓ 工程開始として記録 ↓ 業務システムを更新
という使い方も考えられます。
さらに設備側との連携が可能であれば、位置情報や接近情報を条件として、何らかの制御へつなげることも考えられます。
ここまで来ると、屋内測位は単なる「位置表示システム」ではありません。
現実世界の変化を検知して、デジタル側の処理を動かす仕組みになります。
屋内測位はどのような業務で使えるのか
屋内測位は、さまざまな現場で活用できます。
工場
- 作業者の動線分析
- 工具・台車の探索
- フォークリフトの位置
- 危険エリアへの侵入検知
- 人と車両の接近検知
- 工程の滞留分析
倉庫・物流
- パレットの探索
- 商品の位置
- 搬送状況
- フォークリフトの動線
- 滞留の把握
- 指定エリアへの到着・退出
病院
- 医療機器の探索
- 車椅子など備品の所在把握
- 管理エリア外への移動検知
ホテル・施設
- スタッフの業務状況
- 設備や備品の位置
- 動線分析
- 対応状況の把握
オフィス
- 会議室利用状況
- エリア利用状況
- 設備配置
- 働き方や動線の分析
位置情報だけでは業務改善にならない
ここは非常に重要です。
屋内測位システムを導入し、画面上に点が動くようになった。
これは技術的には成功かもしれません。
しかし、それだけで業務が改善したとは言えません。
重要なのは、その点が何を意味するのかです。
タグ001 = フォークリフトA
エリアB = 検査工程
滞在時間20分 = 通常より15分長い
というように、業務情報と組み合わせる必要があります。
すると、検査工程で何か問題が起きている可能性があるという判断へつなげられます。
屋内測位の設計は「何を知りたいか」から始める
屋内測位を導入するときに、最初から「UWBを使おう」「10cm精度にしよう」と決めるのは適切とは限りません。
最初に決めるべきなのは、何を知りたいのかです。
例えば、
「設備を探したい」のか。
「危険エリアへの侵入を検知したい」のか。
「フォークリフトと人の接近を検知したい」のか。
「工程の滞留を分析したい」のか。
目的によって必要な、
- 測位技術
- 精度
- 測定周期
- 設備数
- タグ
- システム構成
は変わります。
必要なのは「最高精度」ではなく「必要精度」
例えば、「どの部屋に設備があるか分かればよい」のであれば、非常に細かな精度は必要ありません。
一方、「人と車両が一定距離まで近づいたことを検知したい」のであれば、より精密な距離情報が必要です。
つまり、業務要件 → 必要精度 → 技術選定の順番で考えることが重要です。
逆に、技術 → 精度 → 何に使うかを考えるという順番では、技術導入そのものが目的になる可能性があります。
UWBは屋内測位を実現する有力な技術の一つ
第13号で解説したUWBは、屋内測位を実現するための有力な技術の一つです。
UWBでは、電波が届くまでの時間などを利用して機器同士の距離を精密に測ることができます。
そのため、
- 高精度な位置把握
- 接近検知
- エリア判定
- 動線把握
などとの相性があります。
ただし、屋内測位=UWBではありません。
必要な精度や対象、現場環境によっては、Bluetooth、Wi-Fi、RFID、カメラなど別の技術が適している場合もあります。
複数の技術を組み合わせる場合もある
実際の現場では、一つの測位技術だけですべてを解決する必要はありません。
例えば、
屋外 → GPS
建物内の大まかなエリア → Bluetooth / Wi-Fi
重要な工程 → UWB
映像で状態確認 → カメラ
というように、目的に応じて複数の技術を組み合わせることも考えられます。
重要なのは、技術を統一することではなく、必要な情報を適切な方法で取得することです。
屋内測位とAIを組み合わせる
位置情報を継続的に取得すると、大量のデータが蓄積されます。
例えば、
- 移動履歴
- 滞留時間
- 接近履歴
- エリア侵入履歴
- 工程ごとの滞在時間
などです。
これらをAIや分析技術と組み合わせれば、
- 通常とは異なる動きの検知
- ボトルネックの分析
- 動線改善
- 混雑予測
- リスクの分析
などへ発展させることもできます。
つまり屋内測位は、AIが現実世界を理解するためのデータ源にもなります。
NTIが考える屋内測位
NTIでは、屋内測位を、建物の中で人やモノの位置を表示する仕組みだけとは考えていません。
重要なのは、現実世界で起きていることを、位置情報から理解することです。
どこにいるのか。どこへ動いたのか。どれくらい滞在したのか。何に近づいたのか。どのエリアに入ったのか。
そこから、移動、接近、侵入、退出、滞留という状態を捉え、さらに、イベント検知 → 通知 → 記録 → 制御 → 業務判断へつなげる。
そして必要であれば、AIによる分析や判断支援へ広げていく。
そこまで設計して初めて、屋内測位は現場の業務改善につながると考えています。
まとめ
屋内測位は、建物の中で人やモノの位置を把握する仕組みです。
しかし、その目的は位置を表示することではありません。
位置を継続的に取得することで、位置 → 動線 → 滞留 → 接近 → 侵入・退出 → イベントという形で、現実世界の状態をデータとして理解できるようになります。
そして、イベント → 通知 → 記録 → 制御 → 業務判断へつなげることで、位置情報は業務価値へ変わります。
重要なのは、どの技術を使うかから考えることではありません。
まず、現場の何を知りたいのか。何が起きたことを検知したいのか。その情報を使って何を変えたいのか。を考えることです。
そのうえで必要な精度や環境に合わせて、UWB、Bluetooth、Wi-Fi、RFID、カメラなどの技術を選びます。
屋内測位は、現実世界で起きていることをデジタルで捉え、現場の判断やシステムを動かすための基盤になり得ます。
そして、その位置情報を業務情報やAIと組み合わせることで、現場DXをさらに一歩進めることができます。