UWBについて調べると、「センチメートル級の高精度測位」「数十センチ程度で位置を把握できる」といった説明を見ることがあります。
UWBは、電波が届くまでの時間などを利用して距離を精密に測り、高精度な屋内測位を実現できる技術です。
しかし、UWBを使えば、どのような場所でも同じ精度が得られるわけではありません。
工場、倉庫、オフィス、病院、ホテルなど、現場によって環境条件は大きく異なります。
そして、最終的な位置精度は、UWBチップの性能だけで決まるわけではありません。
アンカーの配置、アンカーの位置、壁、棚、金属設備、人、タグの取り付け位置、電波の見通し、測位方式、測位結果の処理など、さまざまな要因が最終的な位置情報へ影響します。
「UWBを導入したのに期待した精度が出ない」ということが、なぜ起きるのか。そして、現場で使える屋内測位にするために何を考える必要があるのか。この記事では、UWB・屋内測位の精度に影響する要因と、導入時に重要となる測位設計の考え方を解説します。
「測距精度」と「位置精度」は同じではない
UWBでは、タグとアンカーの間の距離を測定します。
例えば、あるタグについて、
- アンカーAまで 5m
- アンカーBまで 7m
- アンカーCまで 4m
というように、複数のアンカーとの距離を測り、その情報からタグの位置を計算します。
測距 ↓ 複数の距離を組み合わせる ↓ 位置を計算という流れです。
したがって、距離測定が比較的正確であっても、アンカー位置の誤差、アンカー配置、位置計算などによって、最終的な位置誤差が大きくなる場合があります。
つまり、「測距精度」と「位置精度」は同じではないということです。
アンカーの「場所」が非常に重要
アンカーは、数だけではなく配置が重要です。
例えばアンカーが4台あっても、タグから見て同じ方向へ偏って設置されていれば、位置を安定して求めにくい場合があります。
測位エリアを囲むように配置するなど、複数の方向から情報を取得できる幾何関係(geometry)が重要になります。
つまり、アンカーの数だけではなく、配置が重要です。
アンカーの座標が間違っていれば、位置もずれる
アンカーは、位置が分かっている基準点です。
例えば、
- アンカーA X=0m / Y=0m
- アンカーB X=10m / Y=0m
というように登録します。
しかし、実際にはアンカーBがX=10.3mの位置にあるのに、X=10mと登録されていれば、間違った基準点から位置を計算することになります。
そのため、アンカーを設置するだけではなく、実際のアンカー位置を正確にシステムへ登録することが重要です。
「見通し」がある状態とない状態では条件が違う
位置測位では、送信側と受信側の間に直接見通せる経路があるかどうかが重要になります。
直接見通せる状態を LOS(Line of Sight)、遮蔽物などで直接見通せない状態を NLOS(Non-Line of Sight)と呼びます。
NLOSの例としては、
- 壁
- 棚
- 機械
- 金属設備
などがあります。
直接波が遮られ、反射経路などの影響で距離誤差につながる場合があります。
UWBはマルチパス環境に比較的強い特徴を持ちますが、NLOSの影響がゼロになるわけではありません。
工場では「金属」が大きな要素になる
工場では、金属が電波環境に大きく影響します。
例えば、
- 工作機械
- 棚
- 配管
- 車両
- 金属製設備
- 鉄骨
などによって、電波の遮蔽や反射などが起きます。
「UWBは金属があっても必ず高精度」という誤解を作らないことが重要です。
現場環境を確認した上で、アンカーの位置や構成を設計する必要があります。
人も遮蔽物になる
人も電波環境へ影響します。
無人の環境で良い結果が出ても、実際に稼働して多数の作業者が動けば、条件は変わります。
そのため、無人環境のテスト結果だけで本番環境の精度を判断せず、実際に人やモノが動く環境で評価することが重要です。
アンカーを高い位置へ置けばよいとは限らない
アンカーを高い場所へ設置すると、遮蔽物を避けやすい場合があります。
ただし、「高ければ高いほど良い」わけではありません。
実際には、
- タグとの位置関係
- 測位対象エリア
- 2D / 3D
- 設置可能場所
などを考える必要があります。
重要なのは、複数のアンカーとの良好な幾何関係と伝搬経路です。
タグの取り付け方でも結果は変わる
タグを取り付ける対象には、
- 作業者
- フォークリフト
- 台車
- 設備
- 工具
などがあります。
例えばフォークリフトであれば、金属車体の裏、運転席付近、車体上部など、取り付け位置によって条件が変わります。
人の場合も、身体の前、背中、ポケット、ヘルメットなど、取り付け位置によって条件が変わります。
つまり、タグの取り付け位置も測位システム設計の一部です。
測位する高さも考える必要がある
測位には、平面だけを扱う2D測位(X / Y)と、高さまで扱う3D測位(X / Y / Z)があります。
複数階、高層棚、立体倉庫、上下移動する設備などでは、高さが重要になります。
2Dか3Dかによって、アンカーの設計も変わります。
測位方式によってシステム構成が変わる
UWBの測位方式にはいくつかの種類があります。代表的なものとして、TWRとTDoAがあります。
TWRは、機器間で信号をやり取りし、その往復時間などから距離を求める方式です。
TDoAは、複数の受信側で信号の到着時刻の差などを利用して位置を求める方式です。
方式によって、
- タグの通信量
- アンカーの同期
- 同時に測位できるタグ数
- システム規模
- 消費電力
などが変わります。
つまり、「UWBを使う」だけでは設計は決まりません。
「何個のタグを追跡するか」も重要
タグが1個の場合と、1,000個の場合では、条件が異なります。
対象数が増えると、
- 更新頻度
- 同時通信
- ネットワーク負荷
- 電池消費
などを考える必要があります。
精度だけを見て測位方式を決めることはできません。
「更新周期」も業務要件から決める
位置情報をどれくらいの頻度で取得するか(更新周期)も重要です。
例えば、1秒に1回、10秒に1回、1分に1回など、用途によって必要なリアルタイム性は異なります。
設備がどの部屋にあるかを探す用途と、フォークリフトと作業者の接近検知では、必要なリアルタイム性が異なります。
更新頻度を上げると、
- データ量
- 通信量
- 処理負荷
- 消費電力
などとのトレードオフが生じます。
「速ければ速いほど良い」わけではありません。
精度は一つの数字では表せない
精度は、一つの数字で表せるとは限りません。
例えば、
- 通常時 20cm
- 特定場所 50cm
- 遮蔽物あり 1m
など、場所や条件によって変化し得ます。
電子フェンスでは、平均誤差よりも、境界付近で安定して判定できることが重要な場合があります。
資産探索であれば、正確な座標よりも、どの棚・どのエリア周辺かが重要な場合があります。
つまり、「業務で必要な判定ができるか」で精度を考えることが重要です。
「カタログ精度」と「業務に必要な精度」は別の話
カタログ上の「10cm級」などの数値は、技術選定の参考にはなります。
しかし、企業が本当に必要としているのは、「自分たちの現場で必要な判定ができるか」です。
例えば危険エリア侵入であれば、
- 境界マージン
- 誤判定
- 人の移動速度
- アラートまでの時間
などまで考える必要があります。
重要なのは、カタログスペックを業務要件へ変換する作業です。
電子フェンスでは「境界の揺れ」まで考える
第15号で解説した電子フェンスでは、境界付近の判定が特に重要になります。
例えば、実際には境界の外にいても、
外 ↓ 内 ↓ 外 ↓ 内
というように測位値が揺れることがあります。
すると、侵入イベントが繰り返し発生する可能性があります。
対策としては、
- ヒステリシス
- 滞在時間条件
- 平滑化
- 複数回の測位結果
- エリア境界のマージン
などが考えられます。
つまり、良い屋内測位システムとは、最も正確な座標を出すシステムとは限りません。
業務上必要なイベントを安定して判定できるシステムであることが重要です。
測位誤差をゼロにすることを目標にしない
位置測位に誤差ゼロを求めるのは、現実的ではありません。
重要なのは、誤差をなくすことではなく、誤差が存在しても業務が成立する設計です。
例えば、危険エリアであれば、境界ギリギリではなく余裕を持った警告エリアを設定します。
資産探索であれば、正確な座標ではなくエリア単位で扱います。
つまり、精度を業務側の設計で吸収するという考え方です。
PoCでは「きれいな場所」だけで試さない
PoC(実証実験)では、広くて遮蔽物が少なく、見通しが良い場所だけで評価しないことが重要です。
本番環境には、
- 壁
- 棚
- 機械
- 人
- 車両
- 荷物
があります。
最も測りやすい場所だけではなく、実際に使用する場所や条件が悪い場所まで含めて評価することが重要です。
PoCで確認すべきこと
PoCでは、以下のような点を確認します。
- 通常エリアでの精度
- NLOS環境での精度
- 境界付近での安定性
- 移動中の追従性
- タグを実際に装着した状態
- 人が多い状態
- フォークリフトなどが動いている状態
- 通信切断時の挙動
- データ欠損
- 復帰時間
そして最も重要なのは、「業務で使えるか」です。
正確な位置より「正しい判断」の方が重要
例えば、実際の位置がX=10.00mで、測位結果がX=10.28mだったとします。
28cmの誤差があっても、「作業エリアAにいる」という業務判定が正しければ、問題にならない場合があります。
逆に、10cmの誤差であっても、危険エリアの内外判定が頻繁に変われば、電子フェンスとして使いにくくなります。
つまり、「座標の精度」より「業務判断の精度」が重要です。
測位システムは導入後も調整が必要
現場は変化します。
例えば、
- 棚が増える
- 設備が移動する
- レイアウト変更
- 人の動線変更
などによって、電波環境も変わる可能性があります。
運用時には、
- 精度確認
- アンカー状態
- タグ状態
- 電池
- イベント判定
- アラート発生状況
などを確認します。
「一度設置して終わり」ではありません。
精度を上げることより「使える状態」を維持する
50cmを30cmへ、30cmを20cmへ、といった技術指標の改善が、必ずしも業務価値につながるとは限りません。
一方で、
- 境界判定の安定化
- タグの電池切れ検知
- アンカーの障害検知
- アラートの適正化
の方が、現場価値が大きい場合もあります。
つまり、「技術指標を改善すること」と「現場で使えるシステムにすること」は、必ずしも同じではありません。
NTIが考える屋内測位の精度
NTIでは、「UWBなら何cmで測れるか」だけで屋内測位を考えるべきではないと考えています。
重要なのは、「何のために位置を測るのか」です。
用途には、
- 設備を探す
- 工程を把握する
- 危険エリアへの侵入を検知する
- 人と車両の接近を検知する
- 滞留を検知する
などがあります。
目的が違えば、
- 必要精度
- 更新周期
- アンカー配置
- タグ構成
- 判定ロジック
も変わります。
目的 ↓ 必要なイベント ↓ 必要な精度 ↓ 測位方式 ↓ アンカー配置 ↓ PoC ↓ 実環境評価 ↓ 判定ロジック ↓ 運用という流れで考えることが重要です。
UWBの性能を最大限に引き出すこと自体が目的ではありません。
現場で必要な情報を、必要な精度と安定性で取得すること。それが屋内測位設計で重要です。
まとめ
UWBは、高精度な距離測定・屋内測位を実現できる技術です。
しかし、「UWBを導入すれば自動的にカタログ通りの精度が出る」わけではありません。
位置精度には、
- アンカー配置
- アンカー座標
- LOS / NLOS
- 壁
- 金属
- 人
- タグ取り付け
- 測位方式
- 更新周期
- 対象数
- 判定ロジック
などが影響します。
重要なのは、「UWBは何cmで測れるのか」だけではなく、「自分たちの現場で、必要な業務判断を安定して行えるか」です。
位置を知りたいのか。エリアを知りたいのか。接近を知りたいのか。侵入を知りたいのか。滞留を知りたいのか。目的によって、必要な測位性能は変わります。
目的 ↓ 必要精度 ↓ 技術 ↓ 配置 ↓ 検証 ↓ 運用という考え方で、UWB・屋内測位をPoCで終わらせず、実際の現場で使える仕組みにしていくことが重要です。