DX・IoT

位置情報を使った現場DXとは?工場・倉庫・病院・ホテルで何が変わるのか

現場DXという言葉を聞くと、「紙をデジタル化する」「タブレットを導入する」「システムをクラウド化する」といったことを思い浮かべるかもしれません。

それも、DXの一つです。

しかし現場には、まだデジタル化されていない情報が多く残っています。

人がどこにいるのか。設備がどこにあるのか。荷物がどこで止まっているのか。作業者がどう移動しているのか。危険な場所へ人が入ったのか。

こうした現実世界の状態を取得する方法の一つが、位置情報です。

位置情報と業務情報を組み合わせることで、「現場で何が起きているのか」をデジタル側で理解できるようになります。

この記事では、位置情報を使った現場DXによって、工場・倉庫・病院・ホテルなどで何が変わるのかを解説します。

現場DXで最初に必要なのは「現場を知ること」

DXというと、最初にシステムやAIを導入することを考えがちです。

しかし、現場の状態が分からなければ、何を改善すべきかも分かりません。

例えば工場で、「作業効率を上げたい」と考えたとします。

しかし、どこで人が動いているのか。どこで待っているのか。どこで工程が止まっているのか。どの設備を探しているのか。が分からなければ、改善策は経験や感覚に頼ることになります。

そのため、現場DXではまず、現場で何が起きているのかを把握することが重要です。

位置情報は、そのためのデータの一つです。

位置情報は「現在地」だけではない

位置情報というと、「今どこにいるのか」を知るための情報だと思われがちです。

しかし、位置を継続的に取得すると、より多くのことが分かります。

例えば、位置 ↓ 移動 ↓ 動線 ↓ 滞留 ↓ 接近 ↓ 侵入・退出という情報へ変わります。

さらに時間や業務データを組み合わせると、現場の状態を理解できるようになります。

例えば、「台車Aが検査工程に20分滞留している」という情報なら、単なる位置ではなく、工程で何らかの問題が起きている可能性を示しています。

位置情報を「業務イベント」に変える

企業にとって重要なのは、X=12.4m / Y=8.1mという座標そのものではありません。

必要なのは、業務上意味のある情報です。

例えば、

  • 工程Aへ到着した
  • 危険区域へ入った
  • 指定エリアから設備が出た
  • フォークリフトと作業者が接近した
  • 通常より長く滞留している

といった情報です。

つまり、位置データ ↓ 業務ルールと照合 ↓ イベントへ変換します。

そして、イベント ↓ 通知 ↓ 記録 ↓ システム更新 ↓ 判断へつなげることで、位置情報が業務に使えるようになります。

工場では何が変わるのか

工場では、人、設備、台車、工具、フォークリフトなど、多くのものが動いています。

位置情報を活用すると、これまで人が見たり探したりしていた情報をデータとして把握できる可能性があります。

作業者の動線を把握する

作業者の位置を継続的に取得すると、どこを移動したのか。どこで止まったのか。どの工程を行き来したのか。といった動線が見えてきます。

すると、「部品を取りに何度も遠くへ移動している」「同じ経路を何度も往復している」といった非効率が見つかる可能性があります。

そこから、

  • 設備配置
  • 部品配置
  • 作業手順
  • 工程レイアウト

などの改善へつなげられます。

工具や台車を探す時間を減らす

現場では、「工具が見つからない」「台車がどこにあるか分からない」ということがあります。

一回あたり数分でも、積み重なると大きなロスになります。

設備や工具の位置を把握できれば、人が探し回る時間を減らせる可能性があります。

フォークリフトと作業者の接近を検知する

工場では、人と車両が同じ空間で動く場合があります。

位置情報を利用して、作業者とフォークリフトの距離を把握できれば、一定距離まで近づいたときに、接近イベントとして扱うことができます。

そこから、

  • 本人への警告
  • 運転者への警告
  • 管理者への通知
  • 発生履歴の記録

などへつなげることができます。

ただし、安全に直接関係する制御を、位置情報だけに依存させるべきではありません。

測位誤差や通信状態、タグの状態などを含め、既存の安全設計や運用と組み合わせた全体設計が必要です。

危険エリアへの侵入を検知する

工場内に、

  • 危険区域
  • 立入禁止区域
  • 特定作業区域

などを設定し、位置情報と組み合わせれば、電子フェンスとして利用できます。

作業者 ↓ 危険エリアへ侵入 ↓ システムが検知 ↓ 警告・通知 ↓ 履歴を記録という流れです。

位置情報は、安全管理の入力データにもなります。

倉庫・物流では何が変わるのか

倉庫では、「どこにあるのか」「どこまで進んだのか」が非常に重要です。

パレットや荷物の所在を把握する

倉庫内に多くのパレットや荷物があると、「目的の荷物が見つからない」という問題が起きます。

位置情報を使えば、現在位置や最後に確認されたエリアから対象物を探しやすくできます。

搬送状況を把握する

荷物が、入荷 ↓ 保管 ↓ ピッキング ↓ 出荷と移動する場合、それぞれのエリアへの到着・退出をイベントとして取得できます。

例えば、荷物A ↓ 出荷エリアへ到着 ↓ 出荷工程のステータス更新という使い方です。

位置情報と業務システムを組み合わせれば、現実の移動とシステム上の状態を近づけることができます。

滞留からボトルネックを見つける

通常10分で通過する工程に、30分。60分。と荷物が滞留していれば、その工程に問題がある可能性があります。

位置情報に時間を加えることで、どこで、どれくらい止まっているのかが分かります。

これは物流工程の改善にも利用できます。

病院では何が変わるのか

病院には、

  • 医療機器
  • 車椅子
  • ベッド
  • 備品

など、多くの移動可能な資産があります。

医療機器を探す時間を減らす

必要な医療機器が見つからず、スタッフが院内を探す。こうした時間を減らせれば、別の業務に時間を使えます。

位置情報を利用することで、対象の所在を把握するという資産管理に活用できます。

管理エリアからの移動を検知する

例えば、特定の医療機器を、「このフロア内で利用する」と決めていたとします。

その機器がエリア外へ移動した場合、退出イベントとして記録したり、必要に応じて通知したりできます。

位置情報を、管理ルールの判定へ使うことができます。

ホテル・施設では何が変わるのか

ホテルや大型施設では、人の対応業務が多く発生します。

例えば、

  • 清掃
  • 設備対応
  • 客室対応
  • 備品搬送
  • 保守
  • フロントからの依頼対応

などです。

スタッフの動線を把握する

位置情報から、スタッフがどのように移動しているのか。どのエリアに長くいるのか。どの業務で移動が多いのか。といった情報が分かれば、業務設計を見直す材料になります。

「誰が近いか」を業務に使う

例えば、ある客室で対応が必要になったとします。

位置情報が分かれば、その場所に比較的近いスタッフという情報を利用できる可能性があります。

単に、「スタッフAは3階にいる」ではなく、依頼発生 ↓ 現場との距離 ↓ 対応可能なスタッフ ↓ 業務割り当てという仕組みに発展させることも考えられます。

備品や設備の所在を把握する

ホテルや施設でも、

  • 清掃用具
  • 台車
  • 設備
  • 貸出備品

などの位置を把握する用途があります。

位置情報を活用することで、探す・確認するという業務を減らせる可能性があります。

オフィスでは何が変わるのか

位置情報は、製造業や物流だけのものではありません。

オフィスでも、

  • 会議室
  • ワークスペース
  • 設備
  • エリア

などの利用状況を把握できます。

例えば、「どのエリアが使われているのか」「会議室が実際に利用されているのか」「働き方によってどのような動線が生まれているのか」といった情報は、オフィス設計や設備配置を考える材料になります。

ただし、人の位置を扱う場合は、必要性・目的・プライバシー・運用ルールを明確にすることが重要です。

位置を取得できるからといって、すべて取得すべきとは限りません。

位置情報は「監視」のために使うものではない

人の位置情報を扱うと、「社員を監視するのか」という懸念が生まれることがあります。

これは重要な論点です。

現場DXで位置情報を使う目的は、人を監視することではありません。

例えば、

  • 危険を減らす
  • 探索時間を減らす
  • 動線を改善する
  • 滞留を見つける
  • 必要な人を適切に配置する

といった、明確な業務目的が必要です。

そのため、人の位置情報を利用する場合には、何のために取得するのか。どのデータを取得するのか。誰が見るのか。どれくらい保存するのか。何に利用するのか。を明確にする必要があります。

すべてをリアルタイムに追跡する必要はない

位置情報システムというと、常にリアルタイムで位置を追跡することを考えがちです。

しかし、業務によってはそこまで必要ありません。

例えば、「設備がどの部屋にあるか」なら、数秒・数十秒単位の更新でも十分かもしれません。

「荷物が工程を通過したか」なら、エリアへの入退出だけ分かればよい場合もあります。

一方、「フォークリフトと人の接近」を検知するなら、より高いリアルタイム性が必要です。

つまり、業務要件によって必要な位置情報の粒度も変わるということです。

技術を先に決めない

現場DXを検討するときに、「UWBを使いたい」「AIを使いたい」「カメラを使いたい」から始めるのは、必ずしも適切ではありません。

まず考えるべきなのは、現場の何を変えたいのかです。

例えば、探索時間を減らしたい。危険な接近を把握したい。工程の滞留を見つけたい。搬送状況を把握したい。スタッフの移動を効率化したい。

その目的が決まれば、必要な情報が決まります。

そして初めて、UWB。Bluetooth。Wi-Fi。RFID。GPS。カメラ。などの技術を選びます。

現場DXでは、技術を先に決めないことが重要です。

位置情報だけで現場DXは完成しない

位置情報を取得できても、それだけでは現場DXにはなりません。

例えば、タグ001 X=10.2m Y=8.4mというデータがあります。

しかし、タグ001 = フォークリフトA、X/Y = 検査工程、滞在時間 = 25分、通常時間 = 5分と業務情報を組み合わせると、検査工程で異常な滞留が起きている可能性という意味になります。

つまり、位置情報 × 業務情報が重要です。

位置情報は現実世界の「センサー」になる

位置情報を継続的に取得すると、現実世界で起きている変化をデータとして取得できます。

例えば、

  • 移動した
  • 到着した
  • 出た
  • 近づいた
  • 離れた
  • 止まった

といったことです。

つまり位置情報は、現実世界の状態を取得するセンサーと考えることができます。

AIは位置情報だけでは意味を理解できない

AIへ、X=15.4 / Y=8.2というデータを渡しても、それだけでは意味がありません。

しかし、作業者A ↓ 危険エリアBへ侵入 ↓ 14:32 ↓ 過去30日で同地点の侵入5回という情報になれば、分析できることが増えます。

つまり、位置情報 ↓ 意味付け ↓ イベント ↓ 履歴 ↓ 業務データへ変換することが重要です。

AIはその先にあります。

位置情報を蓄積すると「改善」ができる

リアルタイムに位置を見るだけでなく、履歴を蓄積すると、

  • 動線
  • 滞留
  • 接近
  • エリア利用
  • 工程時間
  • アラート発生

などを分析できます。

すると、「なぜここで人が滞留しているのか」「なぜこの場所で接近アラートが多いのか」「なぜこの工程で時間がかかっているのか」という改善活動につなげられます。

位置情報は、現在を見るためのデータだけではなく、現場を改善するためのデータにもなります。

現場DXは「見える化」で終わらせない

DXでよく使われる言葉に、見える化があります。

もちろん、まず見えるようにすることは重要です。

しかし、画面上で人やモノが動いている。グラフが表示される。だけでは、業務改善にならない場合があります。

重要なのは、見える ↓ 気づく ↓ 判断する ↓ 行動する ↓ 改善するまでつなげることです。

さらにシステム化できる部分では、検知 ↓ 通知 ↓ 記録 ↓ 業務システム更新まで自動化することもできます。

小さな業務課題から始める

位置情報を使った現場DXを考えると、最初から、「工場全体を可視化する」「すべての人と設備を追跡する」といった大きなシステムを考えがちです。

しかし、それでは目的が曖昧になりやすくなります。

まずは、「工具を探す時間を減らす」「特定工程の滞留を把握する」「危険区域への侵入を検知する」など、明確な一つの課題から始める方が、効果を確認しやすくなります。

PoCの目的は「技術が動くこと」ではない

位置情報のPoCで、「UWBで位置が表示できた」だけでは十分ではありません。

本当に確認すべきなのは、その位置情報が業務に使えるかです。

例えば、探索時間が減ったか。滞留を正しく判定できたか。接近イベントが適切に検知できたか。アラートが多すぎないか。現場の人が使えるか。といったことです。

つまりPoCは、技術検証であると同時に、業務検証である必要があります。

NTIが考える位置情報を使った現場DX

NTIでは、位置情報を使った現場DXを、人やモノの現在地を画面へ表示することとは考えていません。

重要なのは、現実世界で起きていることをデータとして理解し、業務を変えることです。

位置 ↓ 移動 ↓ 動線 ↓ 滞留 ↓ 接近 ↓ 侵入・退出 ↓ イベント。

そこから、通知 ↓ 記録 ↓ 業務システムとの連携 ↓ 判断 ↓ 改善。

そして必要であれば、AIによる分析・判断支援へつなげる。

つまり、現実世界 → データ → 業務イベント → 判断 → 行動をつなぐことが、位置情報を使った現場DXだと考えています。

技術から始めるのではありません。現場の何を変えたいのか。そこから必要な情報を考え、必要な技術を選ぶ。そしてPoCで終わらせず、現場で使える状態まで設計する。それが重要です。

まとめ

位置情報を活用すると、人やモノの現在地だけではなく、

  • 動線
  • 滞留
  • 接近
  • 侵入
  • 退出
  • エリア利用

など、現場で起きている状態をデータとして把握できます。

その情報を、業務イベントへ変換することで、

  • 安全管理
  • 資産管理
  • 工程管理
  • 物流管理
  • 業務効率化
  • 自動化

などへ利用できます。

しかし、位置情報を取得すること自体がDXではありません。

重要なのは、その情報を使って、現場の何を変えるのかです。

だからこそ、業務課題 ↓ 必要な情報 ↓ 必要な精度・更新周期 ↓ 技術選定 ↓ PoC ↓ 業務検証 ↓ 運用 ↓ 改善という順番で考える必要があります。

位置情報は、現実世界をデジタルで理解するための重要なデータです。

そして、その位置情報を業務データやAIと組み合わせることで、現場で何が起きているのかを理解し、次の行動につなげるDXへ発展させることができます。

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