事務の仕事を続けてきたけれど、IT業界へ移ることなんてできるのだろうか——そう思って、応募をためらってしまう方は少なくありません。
IT業界の求人はエンジニア職が目立つため、「自分の経験は関係がない」と感じてしまいがちです。ですが、システムやサービスがお客様の現場で使われ続けるまでには、情報を整理する人、関係者をつなぐ人、困りごとを受け止める人が必要になります。事務や接客の仕事で日常的にやってきたことは、その部分と重なることがあります。
この記事では、これまでの経験をどう棚卸しすればよいのか、前職ごとにどんな力が身につきやすいのか、IT業界で新しく学ぶことになるのは何か、そして応募先をどう選べばよいのかを整理します。
事務職からIT業界へキャリアチェンジできる?
結論から言えば、事務職で身につけた経験のなかには、IT業界でも活かせるものがあります。実際に、事務や接客の仕事からIT業界へ移って働いている人はいます。
ただし、「事務経験があればIT業界へ転職できる」という意味ではありません。同じ職種名でも会社によって求められるものは違いますし、足りない部分を入社後に学ぶ必要があるのは、どの職種でも同じです。
大事なのは、これまでの職種名をそのまま持ち込むことではなく、実際に何をしてきたかを分解して、接点を探すことです。ここから先は、その具体的な方法を見ていきます。
職種名ではなく、「してきたこと」で考える
キャリアチェンジで行き詰まりやすいのは、「一般事務」「営業事務」「販売」といった職種名のまま、移れる先を探そうとするときです。職種名は会社ごとの呼び名にすぎないため、そのまま変換できる相手はなかなか見つかりません。
そこで、職種名をいったん外して、日々やってきたことのほうを並べてみてください。たとえば次のような要素に分解できます。
- 情報整理
- 資料作成
- 顧客対応
- 関係者の調整
- スケジュール管理
- 会議の準備
- 問い合わせ対応
- 進行の支援
- 相手に合わせた説明
- 正確な事務処理
- ホスピタリティ
この粒度まで下ろすと、IT業界の仕事内容と見比べたときに重なる部分が見えてきます。求人票を読むときも、職種名ではなくこのレベルで照らし合わせると、自分に近いかどうかを判断しやすくなります。
一般事務で身につきやすい経験
一般事務の仕事では、次のような力が日常的に使われます。
- 決められた形式で、正確に処理を進める
- 散らばった情報を、あとから探せる状態に整える
- 会議や打ち合わせの準備を、抜けなく整える
- 社内の複数部署とやりとりし、必要な確認を取る
- 予定を調整し、関係者の都合を合わせる
IT業界でも、プロジェクトの資料をまとめたり、決まったこと・残っていることを見える状態に保ったり、社内システムの申請や台帳を正しく回したりする場面があります。扱う対象がITに変わっても、こうした動き方そのものは持ち込める場合があります。
ただし、これは「一般事務の経験があれば必ず通用する」という意味ではありません。何を任されるかは会社と業務によって変わります。
営業事務で身につきやすい経験
営業事務の場合は、社内だけで完結しない動きが加わります。
- お客様と直接連絡を取り、必要な情報を受け渡す
- 営業担当と他部署の間に立って調整する
- 見積や提案資料を、期限に間に合う形で用意する
- 案件の進捗を追いかけ、止まっているところに気づく
- 納期や条件を確認し、関係者の認識をそろえる
この「間に立って進める」という動き方は、ITのプロジェクトでも必要になります。お客様と技術者では見ているものが違うため、その間で情報を整理し、話を前へ進める役割が生まれるからです。
念のため書いておくと、営業事務の経験がそのままIT業界のある職種に置き換わる、というわけではありません。重なるのは動き方の部分であり、扱う内容や必要な知識は変わります。
接客・販売・コールセンターで身につきやすい経験
「事務職」という枠の外にも、IT業界と重なる経験はあります。接客・販売・コールセンター・ホテル・医療事務などで培われるのは、たとえば次のような力です。
- 相手が本当に困っていることを、話の中から聞き取る
- 専門的な内容を、相手が分かる言葉に置き換えて説明する
- 問い合わせを受け止め、状況を切り分ける
- 相手の状態に合わせて、対応の仕方を変える
- 困る前に気づいて、先回りして動く
- 断片的な訴えを、対応できる形に整理する
IT業界では、システムを使う人が必ずしも技術に詳しいわけではありません。「うまく動かない」「どこを見ればいいか分からない」という状態から、何が起きているのかを一緒に整理していく仕事があります。ここで効いてくるのが、上のような力です。
技術の知識は入社後に身につけられても、相手の状況を読み取る動き方は、経験のなかでしか育ちにくい部分です。だからこそ、事務職以外の経験も棚卸ししてみる価値があります。
「IT業界が未経験」と「仕事が未経験」は違う
求人を見ていると「未経験歓迎」という言葉をよく目にしますが、この「未経験」は一括りにできるものではありません。
IT業界で働いたことがない、という意味での未経験と、働くこと自体がはじめて、という意味での未経験は、まったく別のものです。事務や接客の仕事を続けてきた方は、前者ではあっても後者ではありません。これまで積み上げてきたものを、何もない状態として扱う必要はありません。
一方で、「事務経験があるから即戦力になれる」という話でもありません。重なる部分はそのまま活きますが、重ならない部分は入社後に覚えていくことになります。自分の経験のどこが重なり、どこが重ならないのかを把握しておくほうが、選考でも入社後でも役に立ちます。
IT業界で、新しく学ぶことになるもの
これまでの経験だけで十分、ということはありません。担当する業務によって、次のような理解が新しく必要になります。
- 基本的なPC・オフィスソフトの操作
- 業務のなかで出てくるIT用語
- 扱うシステムやツールの仕組み
- 情報の取り扱いやセキュリティ上の注意点
- 生成AIなどのツールを業務で使うこと
- プロジェクトの進め方や、関係者の役割
これらは、はじめから全部そろっている必要はありません。ただし「入社すれば自然に身につく」ものでもないため、応募先を選ぶときには、入社後の教育やOJTがあるか、つまずいたときにフォローされる体制があるか、自主学習をどう支えているかを確認しておくと安心です。
なお、資格については、あれば必ず有利になるとも、なければ応募できないとも言い切れません。応募条件は求人ごとに違うため、募集要項に書かれている内容そのものを確認してください。
キャリアチェンジをどう進めるか
ここまでの内容を、仕事選びの流れとして並べると次のようになります。段階や順位ではなく、考え方の順序だと思ってください。
- これまでの仕事を、職種名ではなく「してきたこと」に分解する
- 分解した要素のうち、IT業界の仕事内容と重なりそうなものを探す
- 重ならない部分——新しく学ぶ必要があるものを把握する
- その学びを支える環境があるかどうかで、応募先を絞る
- 職種名ではなく、求人票に書かれた業務内容で最終的に判断する
この順序でたどると、「未経験だから受かるかどうか」ではなく、「自分の経験のどこが、この仕事のどこにつながるのか」を自分の言葉で説明できるようになります。選考で問われるのは、多くの場合そこです。
事務の経験から、どんな仕事へ広がり得るか
IT業界には、開発を主業務としない仕事もあります。事務や接客の経験を活かせる可能性がある領域としては、たとえば次のようなものが挙げられます。
- IT事務
- ITサポート・ヘルプデスク
- PMO・プロジェクト支援
- 導入支援
- 顧客支援
- AI活用支援
それぞれがどんな仕事なのか、会社によって呼び方がどう変わるのかは、別の記事で整理しています。ここでは「開発以外にも入口はある」という点だけ押さえておいてください。
AIに関わる仕事へ広がることもある
近年は、生成AIを業務のなかで使う場面が増えています。ITツールを使いながら人を支える仕事を続けていると、手作業で回していた部分をAIに任せてみる、といった判断を自分でする場面が出てきます。そうした経験を重ねるうちに、AIを業務のなかでどう使うかを考える側へ、関心が移っていくことがあります。
ただし、事務職から必ずAIに関わる仕事へ進める、という話ではありません。そうならない人もいますし、事務やサポートの専門性を深めていく道も同じように成り立ちます。どこへ広がるかは、本人の関心と、そのとき関わる仕事によって変わります。
NTIでの接点
ここまでは一般的な話です。最後に、私たちNTIがこうした経験とどう接点を持っているかを、参考としてご紹介します。
NTIには「ITセクレタリィ」「AIセクレタリィ」という職種があります。いずれもNTIが自分たちの仕事に合わせて名づけたもので、世の中の職種名と一対一で対応するものではありません。前職の名前がそのままこれらの職種になる、という関係でもありません。
ITセクレタリィとの接点
ITツールを活用しながら、現場の業務をスムーズに回す職種です。資料作成・整理、情報整理、会議調整、問い合わせ対応やヘルプデスクサポート、業務整理・フロー整備、プロジェクトの支援(PMO / PSO支援)などを担います。
この記事で挙げてきた「してきたこと」——情報整理、資料作成、調整、進行、顧客対応、ホスピタリティ——は、この範囲と重なる部分があります。重ならない部分は、入社後に少しずつ広げていくことになります。
AIセクレタリィとの接点
生成AIなどのツールを活用して、業務の効率化・改善・自動化を進める職種です。AI議事録、情報整理、ナレッジ管理、AI活用サポートなどに関わります。事務やサポートで培った整理する力は、この領域とも接点があります。
ITセクレタリィとして始めてからAIセクレタリィへ進む選択肢もありますが、それが必須の経路というわけではありません。はじめからAIセクレタリィとして入社するケースもあり、どちらが上・下ということもありません。勤続年数で自動的に移れる制度でもなく、入口も進む方向も本人の経験・志向・適性によって変わります。
求めている姿勢について
NTIは、入社時点で完成されたIT・AIスキルを持っていることよりも、自ら学び、身につけようとする姿勢を重視しています。学ぶための機会は用意していますが、それを受け身で待つのではなく、自分から使って成長していくことを大切にしています。
これは「意欲があれば誰でも採用する」という意味ではありません。応募条件や選考で見ている点は募集要項に記載しています。仕事内容、これまでの経験がどこにつながるのか、入社後に何を学ぶのかについては、採用ページにまとめています。